大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(行)107号 判決

原告 平沢貞通

被告 国

請求の趣旨、原因

別紙のとおり

主文

一、本件訴を却下する

二、訴訟費用は、原告の負担とする

理由

本件訴状によると原告は検事の作成した聴取書の成立が無効であることの確認を求めているのであるが、書面の真否確定の訴が許されるのは、民事訴訟法第二二五条にいう法律関係を証する書面に限られるものであるところ、刑事訴訟手続において検事が被疑者叉は被告人の供述を録取した聴取書は右の書面に該当しないことは明かであり、他に右聴取書の有効または無効の確定を訴訟によつて求めることは、現行法体系の上からいつて許されないものと解する。よつて原告の本訴請求は、不適法でその欠鋏が補正することができない場合であるから民事訴訟法第二〇二条を適用してこれを却下し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条によつて原告に負担させて主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 石井玄)

別紙

当事者〈省略〉

請求の趣旨

一、被告は原告が殺人等刑事被告事件(帝銀事件)につき

(1)  昭和二十三年十月八日付(第六〇回)

(2)  同年同月九日付    (第六一回)

(3)  同年同月同日付    (第六二回)

の各原告に対する検事出射義夫が東京拘置所(小菅)に於て取調べ、且読聞けて作成した聴取書(所謂自白調書)の成立が無効であることを確認せよ。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との御裁判を求めます。

請求の原因

一、原告は昭和二十三年八月二十一日帝銀事件の被疑者として小樽より東京警視庁に拘禁せられて取調を受け其後昭和二十三年十月八日に小菅の東京拘置所に移監されました。そうして裁判の結果、一、二、三審共有罪の判決をうけ既決囚として、西巣鴨の東京拘置所に在監中のものであります。

しかしその判決には不服なので叉新らたな証拠が出たので目下再審申立審理中であります。

二、処が右帝銀事件に関し、右十月八日及九日に、検事出射義夫は事務官佐々木信雄と共に東京拘置所(小菅)に出張して、同所に於て原告を取調べの上、

(1)  昭和二十三年十月八日 (第六〇回) 約二十五枚

(2)  同年同月九日     (第六一回)  約二十枚

(3)  同年同月同日     (第六二回)  約十九枚

の各聴取書(所謂自白調書)を作成し原告に読聞け、原告は相違なき旨を述べたので原告に署名掴印せしめて作成したことになつて居ります。

三、そして原告は右聴取書は帝銀事件裁判の時に一、二、三審共否認して来ましたが、何れもこれが有力な証拠として有罪の判決を言渡されております。原告はこの判決は不服なので再審を申立目下審理中であります。

四、原告は右の移監された昭和二十三年十月八日の日はもとより翌十月九日にも右検事及事務官等に小菅の拘置所に於て面会取調を受けたことは更になく又聴取書の読聞けを受けたこともなく且署名栂印したこともありませぬ。

五、依つて右聴取書は何れも嘘偽の事実を偽造されて作成した聴取書でありますので各其成立の無効であることの確認を求むる為め本訴に及んだ次第であります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例